第2話見知らぬ天丼、マグロ男が大間の荒波に揉まれた悲しい物語。

これは友人Aが体験したという悲しくせつない物語である。本が好きなAは、良く地元のアーケード街の中にある本屋に通っていた。そこで一人の女性Bとの間に起きたアクシデントにより、思いもよらぬ展開が始まったのである。

第二話見知らぬ天丼、マグロ男に大間の荒波襲来!

事の始まりは、そうあれは10年も前。風の強い冬のことだった。友人Aこと主人公の僕は、いつも立ち寄るアーケード街の一角にある本屋にいた。

店の名前は、そうだな戸熊(どぐま)書店とでもしておきます。

ちなみに僕の歳だが、20代前半である。嘘、ではない。そして、未だ何の経験もない。社会的にも精神的にも学生の頃とさほど変化はなかった。意味は色々と察してほしい。

そんな僕だが、本だけは好きで、ほぼ毎日のように戸熊書店に顔を出していた。ただ、そこにはもう一つの目的があった。

戸熊書店には、僕の母親くらいの年齢の女性が2人ほどいて、後は店主らしき50代くらいの人物、最後に僕と同じくらいの年齢のとても綺麗で可愛らしい女性がいた。

まあここまで言えば分かるだろう。つまり僕は、その女性が気になっていたのだ。女性をBとしておこう。

Bは、どんな客にもいつも笑顔を向けて本当に愛想が良い。そんなだから、男たちはもしかして俺に気があるなんて思ってしまう。実は僕もその一人だ。

でも、僕はただ遠くで見るだけでいい。それだけで良かったという実はもっとも危ない人物だったのかもしれない。そこには、告白する勇気もない情けない男の姿があった。

しかし、そんな僕にまさかとんでもないチャンスがやってくるとは、夢にも思わなかった。

僕はその日、いつものように購入しようとしていた本を手に取り、レジに向かうとラッキーな事にBがレジ担当をしていた。Bに本を差し出すとニッコリと微笑んで、丁寧に本を袋に入れる。確か本の値段は、1000円ちょっと。

僕は財布からお金を出すと、Bに渡す。すると今まで笑顔で対応していたBの表情が一瞬曇った。どうしたんだろう?と思いながらも、僕はBから受け取った本を持って店を出た。

家路につくまでの間、僕はBの表情を思い出し違和感を覚えながらも、家に着くとそんなことはもう忘れていた。

ところが、それから数時間経った夜の事、僕のスマホが鳴った。友達も知人もあまりいない僕のスマホにかかってくる電話など間違い電話か迷惑電話くらいしかない。

ましてやこんな時間。一瞬出るのを無視しようかと思ったけど、出てしまっていた。おそるおそるハイと答えると、向こうから声が発せられる。

もしもし、えっ女性の声?ハイとまた答える僕。すると、女性は「あの、いつも戸熊書店に来られてますよね?」と言う。声を聞いてすぐBさんだと分かった僕。なぜ僕の電話番号を知っているのだろう。僕は瞬間的に思考停止。頭が真っ白になった。

言葉が出てこない中、僕はどうして?という言葉だけをBさんにぶつけた。すると、Bさんは、すみません、こちらが聞きたいです。突然こんなことされても私困りますと言う。

余計混乱して言葉が出てこなくなった僕。理解に苦しんでいると、Bさんは「えーと、これでもうお店に来なくなるというのは困るので、一度どこかで会ってお話させていただけませんか?」と提案され、僕は何が何だか分からずもいいですよと答えた。

Bさんは、では明日の午後2時に喫茶店リリースでお待ちしてますと言い通話を終えた。僕の心臓は、いつもより早く脈打っていた。

一体何が起こっているのだろう。これは現実か?それとも夢か?ベターながら僕は自分の頬をつねってみた。痛い!どうやら夢ではなさそうだ。

どういうわけかは知らないが、あのBさんと二人きりで会うなんて夢のようだ。僕は結局その日、眠れない夜を過ごした。

当日、持っている服を勢ぞろいさせ、数えきれないほど鏡に向かいながら、自身との交渉に入る。これでいいかと言い聞かせ、家を出る。

5分前行動に定評のある僕は、待ち合わせの14時より早くリリースについた。しかし、中に入るともうBさんは席に座って待っていた。

Bさんは、僕に気づくと軽く会釈をした。僕もそれにつられて会釈をする。ところが席につくとすぐ真後ろの席に座っていた男が立つとすぐBさんの隣に座った。

そして、Bさんに店を出るよう指示。Bさんは帰ってしまった。

男は、僕と目が合うや言葉を発した。甘い声につられてノコノコ来やがって、ずいぶんおめかししてきたのかな僕と言う。

僕は、一体これは何なんですか?そして、あなたは誰なんですか?と問いただす。すると、男は、少し笑みを浮かべ、俺か俺はまあ大間(仮名)って者だよ。

大間さんですか。その大間さんがどういう用でと言うと、大間は一枚の紙きれをテーブルに投げた。こ、これは、僕のスマホの番号。どこで?

大間「お前がBに渡したんだろうが」と言う。

僕は何かを思い出したかのように財布を開け、中を見る。すると、電話番号を書いた紙きれがなかった。ハッと思い出す。そうか、あのレジの時、間違って札と一緒に紙を渡してしまったのか。

僕は、新しく買ったばかりのスマホを無くした場合に、自分の電話番号が分かるよう紙に書いて財布に入れておいたのだった。それが今回偶然とはいえ、Bさんに行き渡ってしまった。

僕は、大間に実はこういうわけで間違って渡した旨の説明をする。しかし、当然ながら大間は、信じない。そんな間抜けな事があるか?俺の女は、はっきり言って美人だし、カワイイ。そんなウソついて、下心がなかったなんて話通じるか。

そこで僕は、これまでの間抜けなエピソードの数々を力説し、さらに僕はどう考えてもBさんと釣り合わないくらいBさんがいかに素晴らしい女性かを大間に話した。

そこからは、時間感覚がすでになく説明を終えた時には、もう1時間はずっと喋りっぱなしだった。大間は、呆気にとられたような顔をしていたが、話をすべて聞き終えると、理解してもらえたのか突然高笑いしだした。

お前、面白い奴だな。そうかそんなにBは素晴らしいか。素敵な女か。よし!分かった。だったら、今回は慰謝料の代わりにA、お前1か月Bの彼氏になれ。

へっ、彼氏ですか?僕がキツネにつままれたような顔をしていると、そうだよ。彼氏になってBを楽しませてあげるんだよ。でも、彼氏さんいや旦那さんはそれで大丈夫なんですか?と言うと、大間は、誰が旦那だよ。俺は、Bの兄だ。

えっ?お兄様。大間「お兄様とか気持ち悪いからやめろ」

まあとにかく俺は、お前を気に入った。お前ならBの同意なく嫌がる事とかしないだろう。僕「そ、そんな当たり前じゃないですか。」大間「何想像して顔真っ赤になってんだ。」

大間はそういうと店員に声をかける。店員さん注文いいかな。店員「どうぞ」大間「じゃあマグロ丼と天丼もらえる」店員「かしこまりました。」

しばらくしてマグロ丼と天丼がやってきた。Aは、マグロ丼な。俺は天丼だ。えっ?マグロ丼ですか?大間「なんだ不服か?」僕「いえ」大間「大間と言えばマグロだろ」僕「はぁー」

そんなわけで僕は、見知らぬ天丼を見ながら、マグロ丼を食べていた。

レンタル彼氏は一か月。Bさんとの別れ。

何の慰謝料かも分からず、とにかく僕はBさんの一か月限定の彼氏になった。初デート当日、また僕は例のように鏡の前で幾時間の男の戦いを制し、決めて待ち合わせ場所へと向かう。

初号機と名をつけた年式の古い自動車に乗り込むと目的地へ車を走らせた。一応、前日に車はピカピカに仕上げてある。そんなに威張る事ではない。

目的の場所へ着くと既に彼女はいた。Bさんがたたずむそこだけが、僕には輝いて見えていた。僕「Bさん本当に僕なんかと付き合いしてくれるんですか?大丈夫ですか?」と問うと、Bさんは笑って、お兄ちゃんが選んでくれた人なので安心してますと言う。

大間さんに向けてパンパンと手をたたき、頭を下げる僕。大間「いや勝手にもう世界にいない人みたいになってるし、おいおい」

僕「どこか行きたい場所あります?」と聞くと、Bさんは子供のような無邪気な笑顔を見せ、本当にどこでもいいんですか?と言うので、うなずくと喜んでいきたい場所を伝えてきた。

それは、ちょっと子供がパパにおねだりするような感覚だった。僕はパパではないけどねwじゃあ今日中は無理でも、これから一か月かけて全部回ろうと僕は言った。

Bさんは、同じ年齢にしては思ったより子供っぽい感じがした。何かを我慢してきたのか、普通の女の子なら行くはずであろう場所も全く行った事がなかったようだった。

僕はそれを聞いて、むしろ俄然とやる気がわき起こり、Bさんのために一か月間やり残したことがないよう、出来る限りすべて望みを叶えてあげようと思った。

Bさんとのデートは、本当に楽しく、初めて行く場所に目を輝かせて、僕はBさんの喜ぶ姿を一緒に共有できることに満足していた。

Bさんは、ちょくちょく生まれてきて良かった。生きてて良かったという言葉を口にする。俳優の織田裕二さんも確か地球に生まれて良かったと言ってたけど、そんな心境なのかなと思っていた。

僕は、Bさんの彼氏になって毎日が楽しく仕事もプライベートも充実していた。Bさんとは毎日電話でも話し、本当に他愛もない会話でも幸福感の高い日常だった。

しかし、3週間目のデート日、待ち合わせ場所にBさんはいたのだが、その表情は何だか暗かった。いや、暗いというより体調が悪そうな顔をしていた。

僕「Bさん大丈夫?あの体調悪いなら無理しなくていいよ。今日は帰ろう。送っていくから」と言うとBさんは首を横に振り、大丈夫だから今日は海に行きたいと言った。

僕はBさんの体調が心配だったのですが、彼女がどうしてもというので仕方なく、車を海に向けて走らせた。僕「少し寝てていいよ。着いたら起こすから。」Bさん「ありがとう」そういうとBさんは、すぐにスヤスヤと眠ってしまった。

それから走る事1時間。海に着いた。僕は、車を止めBさんを起こそうと思ったが、気持ちよさそうに寝ていたので、しばらくそのままにしていた。

それから2時間ほど経っただろうか。Bさんは目を覚ました。さきほどより、少し顔色が良くなっていた。Bさんは、ぐっすり眠ってしまった事を何度も謝る。僕は気にしなくていいよと何度も言った。

海を見ると、サーファーたちが一生懸命練習をしていたけれど、冬の海と冷たい風。Bさんが心配で仕方なかったが、Bさんはしばらく砂浜を歩きたいと言うので、僕は一緒に歩いた。

歩いている途中、どちらからということもなく自然とお互いは手を繋いでいた。それが初めてBさんに触れた瞬間でもあった。

海の冷たい潮風が、Bさんのきれいな肌を余計透き通らせた。(何を言ってるんだ僕は)寒いし、そろそろ帰ろうかと言う僕にBさんがうなずいた瞬間。

Bさんの身体から力が抜けるのを感じた。フッと意識を失いかけるBさんの身体をしっかり僕は受け止め、抱き寄せた。Bさんが意識を取り戻したので、僕はゴメンと言い慌てて引き離そうとしたのですが、Bさんはしばらくこのままがいいと言う。

僕は望み通り、しばらくそのまま二人で海を眺めていた。その後、Bさんを抱えながら、僕らは車に戻る。僕の自宅へ戻るまでBさんは、眠っていた。

大間さんには、帰る前にBさんの体調を話していたので、自宅前で大間さんは待っていた。A君悪いな、後は俺が送っていくからとその場でBさんと大間さんと別れた。

そして、これが僕とBさんの別れでもあった。大間さんからは、もうBさんとは会えないと言われ、残念な気持ちがあったけど、Bさんからのありがとうの伝言を聞き、Bさんとの今後の未来を諦めることにした。

当然、戸熊書店にも彼女はいなかった。

それから数か月後、突然自宅前に大間さんが立っていた。大間さんは、悲しそうな顔を浮かべていた。そして、表情そのままの現実が伝えられることになった。

僕も悲しくて3日間号泣した。どうやらBさんは、子供のころからある病気と闘っていたようだった。

大間さんから一通の手紙を渡された。そこには、僕との3週間のやり取りが事細かく描かれており、Bさんにとっても充実した時間であったことがつづられていた。涙にぬれて読めない文字もそこにあった。どんな思いでコレを書いたかが伝わってきた。きっと彼女も悔しかったのだろう。もっともっと楽しい時間をこの先も生きたかったのだろう。

最後のありがとうの後に、点が5文字分描かれていた。何を言いたいか僕にははっきり分かった。ありがとう。

まとめ

1、思いを寄せていた本屋店員Bに間違って電話番号のメモを渡したA

2、Bの兄大間に詰め寄られ、誤解を一生懸命解くA、気に入られる

3、一か月限定の彼氏役になるAは、Bの希望通りにデートを続ける

4、恋人になって3週間後、突然の別れ

5、兄大間より真相を告げられ、号泣するA

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