ヒーローだった僕が15年後に職質されみじめになった話。

当時二十歳だった僕は、ある雨の日一人の少女に出会う。ランドセルは汚れていて、顔も泥だらけで泣いていた。そして、その周りには3人の傘を差している少女たち。僕は、居ても立っても居られず、少女を助けに向かっていた。。

ヒーローだった僕が15年後に職質された。パート1

大学2年の夏、二十歳だというのに未だ彼女もいない。そして勉強が特段出来るわけでもないという中途半端な日々。

友人は皆彼女がいたり、サークルで忙しかったりと僕は何だか一人取り残されたような心境だったような気がする。

はぁー今日も雨か。ここ数日ずっと雨が続き、気持ちもどんよりしていた。夕方になり、俺は家に向かって歩いていると、何やら学校の校舎裏から声が聞こえてきた。

えーとここは、小学校か。複数の女の子の声、何だろう。でも、二十歳の男が同世代の女子ならまだしも子供を気にするとか、ヤバいだろ。おかしい奴だと思われる前にさっさと立ち去ろう。

そう思い、早足になった瞬間、校舎裏から飛び出してきた一人の女の子と目が合った。その女の子は、顔もランドセルも何もかもが泥だらけで、おまけに傘も持っていなかった。

どうしたどうした。と思いながら僕は固まり眺めていると、女の子がナント僕に向かって一直線に走ってきたのでした。えっ?ええーっとビックリしていると女の子は僕の後ろに回り込み僕のズボンの端を掴んで離さない。

そんな状況で戸惑っていると、校舎裏から今度は3人の女の子たちが現れた。その中の一人が対象物を見つけたかのように、A子いたと指をさす。

A子とは、紛れもなく僕の後ろにいる女の子のこと。A子はずっと震えていた。

そこで僕はようやくA子がいじめられていることを理解した。3人の女の子のリーダー格らしい子は、僕の後ろに隠れているA子に向かって、そんなオッサンに助けてもらいたいの?ださっwと続け、そこに2人が同調する。

そして、早く遊んであげるからこっちに来いと言うのである。いやー今時の小学生は怖いなと思いながら聞いてたのですが、オッサンというワードに僕の脳が一瞬立ち止まる。

オッサン、だと?20歳の僕を捕まえてオッサンは酷い。確かにメガネをかけて地味な恰好をしているが、流石に小学生の女の子にまでは舐められたくないと思い、傘をA子に渡すと大丈夫お兄ちゃんが助けてあげるからと言い、雨水で髪を濡らした。

3人の女の子たちは、その光景を見て何格好つけてんのオッサンと笑う。しかし、そこはしょせん小学生。口だけはいっちょ前でも、中身はまだ子供。

僕は濡れた髪をかき上げ、髪をオールバックにしメガネを外した。そして、人生史上初の強面な表情をつくり、3人の女の子たちに近づく。

それを見て怖くなったのか逃げ出そうとする3人の進路を一瞬でふさぎ、小学生相手にメンチを切る20歳の男。傍から見たら、とてつもなく格好悪い。

しかし、今はA子を助けているという口実がある。本当は、単に僕が怒りをぶつけただけなんですけどねw

3人の女の子たちは、ついに泣き出した。そこで僕は、今度もしA子ちゃんを泣かせたら、俺がまたお前たちを泣かせに来るからな。分かったかとイキる。

3人がもうしませんゴメンナサイというまで何度も同じことを言い、ちょっとヒーロー気分で余韻(よいん)に浸る。

こうして3人の女の子は、逃げるように帰っていった。そして、僕がA子ちゃんの方を見るとまぶしいばかりの輝きに満ちた目がそこにあった。

A子ちゃんは、余程うれしかったの僕の足にしがみついてしばらく離れなかった。僕はこの時、子供のころに見ていたスーパーヒーローを思い出していた。僕カッコよくない?

その後、A子ちゃんを自宅に送り届けると僕が見えなくなるまでA子ちゃんは手を一生懸命振っていた。

とにかく気分としては最高の一日だった。

ヒーローだった僕が15年後に職質された。パート2

それから時は流れ15年後。僕は35歳、正真正銘のオッサンと化していた。20代の頃とは違い、30代になると1年が早く感じる。

そんな事を考えながら、ダラダラと毎日を送っていた。

そして、問題のあの日がやってくる。あれは確か夜の22時くらいだったか、コンビニで買い物をして歩いている途中の事です。

突然一台の車が僕の歩いている脇まで来ると、車の窓が開きちょっといいですか?と聞かれる。車を見るとそれはパトカーだった。

えっ?これって職質?そう僕は人生初の職質にあっていた。パトカーの中には二人の警官が乗っていて、一人は男性、もう一人は女性だった。

僕は、男性警官から色々と素性について問いただされる。それにしても、事細かく聞いてくるな。こんなものなのかと思っていると、今度は持ち物検査まで要求される。

別に怪しくないだろと僕は思いつつも、ちょっと見せたくないものがあったので拒むとそこから追及が激しくなった。

そして、男性警官はなぜか無線で応援を呼ぼうとする。ところがそこにもう一人いた警官、つまり婦警さんが待ったをかけた。

ちょっとすみません。この方は悪い人ではないです。なので、私が引き継いでもいいですか?と男性警官の方に言っていた。男性警官は、少し渋っていたが婦警さんの気迫に負けたのか職質を譲ることに。

僕としては、譲られてもなと思っていたのですが、婦警さんはさきほどの男性警官とは違い、驚くほど優しかった。

何度も謝ってきては、笑顔で話してくるので、僕はもしかして僕がイケメンすぎて、もしくはタイプの顔で好きなんじゃないかと思うほどでした。いやいやどう考えてもイケメンではないw

そこで僕は、婦警さんに勘違いかもしれませんが、何かやたら対応が優しくないですか?警察の方でこんなに優しい対応された経験って今までないんですがと聞くと、婦警さんはしばらく黙っていた。

しかし、何か意を決したのか話し始めた。あの、私の事覚えてませんか?と言う。僕は、知り合いに警察官なんて一人もいなかったので、知らないですねと答える。

すると、婦警さんからとんでもない言葉が発せられた。私A子と言います。あの小学生の時、あなたに助けていただいたA子です。

えっ?あのA子ちゃん?こんなに大きくなったんですね。あっ確かに面影はあるかも、それにしても警察官になられたんですね。

はい、あの時本当にお兄さんがかっこよくて私も誰かを助けれる人になりたいと思ったんです。とその話を車の中から聞いていた男性警官も少し微笑んでいた。

あのときはまだ子供でちゃんとお礼も言えず、すみませんでした。あれから3人の女の子も私に嫌な事をしてこなくなったので、本当に学校に行くのが楽しくなりました。

そうですか。それは良かったと中々イイ流れだったのですが、やはり見せたくないものの提示は迫られます。うわーっ絶対この状況で出したくない。

そう思っていたのですが、お兄さんには男としてカッコよく潔い人であってほしいなどと言われ、出さざるを得ない状況になってしまった。

まさかコンビニで買った男性しか読まないであろう雑誌を見せたくないという理由だったので、これならまだ男性警官の時に見せておけばと後悔。

一番タイミングの悪い場面で、僕は結果的にその雑誌をヒーローとして彼女に描かれていた像をぶち壊してしまった。

雑誌を見た時の彼女の表情が忘れられず、みじめに帰宅する傷ついたヒーローでした。

まとめ

1、20歳の時、嫌がらせを受けていた小学生の女の子を助ける。

2、女の子は僕をヒーローと思い、自身も誰かのヒーローを目指し警官になる。

3、35歳になった僕が職質を受けた警官は助けた女の子だった。

4、婦警に見られたくない雑誌を見られ、みじめになるヒーロー。

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